Day 038 | 2026-06-02
高く跳ぶ前に、着地で潰れない力を作る
火曜:ジャンプ・プライオ・SSC事象(レッスンでこう見える)
ジャンプで高く跳べない子に「もっと強く跳べ」と言うほど、着地で深く沈み込み、次の跳び返りが遅くなることがある。
本人は頑張っている。けれど実際には、上へ押す力の前に、下から来る衝撃を短時間で受け止めるエキセントリック収縮の準備が足りていない。
見た目では「膝が曲がりすぎる」「音がドスッと重い」「連続ジャンプでだんだん沈む」「台を高くすると急に怖がる」と出る。
ここで大事なのは、ジャンプ高だけを見ないこと。接地時間、沈み込みの深さ、膝の向き、疲労後の再現性まで見ると、ただの筋力不足ではないことが分かる。
エキセントリック収縮(eccentric contraction)
筋肉が伸ばされながら力を出す働き。着地、減速、階段を下りる動きで使われる。今回のカードでは、ジャンプ前に体を潰しすぎないためのブレーキ能力として見る。
坂道を下る時、脚は前に進みながらブレーキをかけている。止める力なのに筋肉は伸ばされている。
コンセントリック収縮(concentric contraction)
筋肉が短くなりながら力を出す働き。ジャンプで床を押して上へ出る局面。エキセントリックで受け止めた後、ここへ素早く切り替わると跳び返りになる。
しゃがんだ姿勢から立ち上がる時の太もも。縮みながら体を持ち上げる。
SSC(Stretch-Shortening Cycle)
筋腱が一度伸ばされ、その直後に短くなって力を出す仕組み。エキセントリック収縮からコンセントリック収縮への切り替えが短いほど、反発として使いやすい。
輪ゴムを軽く引いてすぐ離すと勢いよく戻る。引いてから待ちすぎると勢いが落ちる。
接地時間(Ground Contact Time / GCT)
足が地面に着いてから離れるまでの時間。プライオメトリクスでは、ジャンプ高だけでなく接地時間を見ると、反発で跳んでいるか、筋力で立ち上がっているかを分けやすい。
ボールがポンと弾むのか、クッションにベタッと沈むのか。その差が接地時間に出る。
RSI(Reactive Strength Index)
ジャンプ高を接地時間で割った指標。高く跳ぶだけでなく、短く跳び返せるかを見る。Drop Jump の質を比べる時に使いやすい。
点数が同じ高さでも、すぐ跳び返した子の方がRSIは高い。高さと速さを合わせた成績表。
至適落下高(Optimal Drop Height)
Drop Jump で、その子が最もよく跳び返せる台の高さ。高いほど良いわけではない。接地時間が伸びたり膝が潰れたりする高さは、その子にはまだ早い。
トランポリンも高く飛び込めば良いわけではない。反発を使える高さがその人ごとにある。
腱剛性(tendon stiffness)
腱の伸びにくさ。硬すぎても柔らかすぎても問題だが、ジャンプでは短時間で力を伝えるために適度な剛性が必要。SSCの効率と関係する。
柔らかすぎるバネは沈み込みが長い。適度に硬いバネは短く押してすぐ返る。
ヒステリシス損失(hysteresis loss)
腱や筋が伸び縮みする時に、蓄えたエネルギーの一部が熱などに逃げること。沈み込みが長いほど、跳び返りに使える反発が減りやすい。
ボールを強く押しつぶして長く止めると、すぐ離した時ほど跳ね返らない。
膝外反(knee valgus)
着地で膝が内側へ入る動き。プライオで疲労した時や、受け止め能力を超えた高さで出やすい。反発練習の前に安全確認として見る。
つま先は前なのに膝だけ内へ倒れる。正面動画で見つけやすい。
Pre-PHV(Peak Height Velocity 前)
身長が一番伸びる時期の前。小学生後半から中学生前半では、成熟度が同じ学年でも大きく違う。プライオ負荷を年齢だけで決めない理由になる。
同じ小5でも、体の成長時計が早い子と遅い子がいる。
多方向プライオメトリクス(multidirectional plyometrics)
前後だけでなく横、斜め、回旋を含む跳び返り練習。エキセントリック収縮で止まり、すぐ次方向へ出る能力を育てる。
真上に跳ぶだけでなく、右へ止まって左へ返す。鬼ごっこやサッカーの切り返しに近い。
アイソメトリック(isometric)
関節角度を変えずに力を出す運動。カーフレイズ保持や壁押しのように、動かずに張力を作る。腱剛性を扱う導入として使いやすい。
空気椅子で止まる、つま先立ちで止まる。動かないが筋肉と腱には力が入っている。
正体(科学的メカニズム)
Eccentric Braking Capacity(潰れずに受け止める力)
プライオメトリクスは「跳ぶ練習」である前に、「落ちてきた力を短く受け止める練習」。受け止めが遅いと、反発ではなくスクワット動作になる。
① 着地で筋腱が伸ばされる
↓ 足首・膝・股関節が曲がり、下腿三頭筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、腱が力を受ける
② エキセントリック収縮でブレーキをかける
↓ ブレーキが弱い子は、膝と足首が深く沈み、体を止めるまでの時間が伸びる
③ SSCとしてすぐ切り返す
↓ 伸ばされた筋腱がすぐ短縮へ切り替わると、弾性エネルギーが跳び返りに使われる
④ 接地時間が伸びると反発が逃げる
↓ 沈み込みが長いほどヒステリシス損失が増え、筋力で立ち上がる動作に変わる
⑤ その子の至適落下高を超えると崩れる
↓ 台を高くした瞬間に膝外反、接地音、接地時間が崩れたら、そこは練習ではなく負荷過多
↓ 足首・膝・股関節が曲がり、下腿三頭筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、腱が力を受ける
② エキセントリック収縮でブレーキをかける
↓ ブレーキが弱い子は、膝と足首が深く沈み、体を止めるまでの時間が伸びる
③ SSCとしてすぐ切り返す
↓ 伸ばされた筋腱がすぐ短縮へ切り替わると、弾性エネルギーが跳び返りに使われる
④ 接地時間が伸びると反発が逃げる
↓ 沈み込みが長いほどヒステリシス損失が増え、筋力で立ち上がる動作に変わる
⑤ その子の至適落下高を超えると崩れる
↓ 台を高くした瞬間に膝外反、接地音、接地時間が崩れたら、そこは練習ではなく負荷過多
研究: 子どものプライオメトリックトレーニングは、適切な負荷設計でジャンプ、スプリント、方向転換能力の改善と関連する。ただし「高い台から落とす」ではなく、年齢・成熟度・技術に合わせた介入が前提。
研究: Pre-PHV期の子どもでもジャンプ高改善を扱う研究はあるが、成熟度差が大きい。学年だけでDrop Jumpの高さや回数をそろえると、強い子には軽すぎ、弱い子には危険になる。
研究: 多方向プライオメトリクスは、真上に跳ぶだけではなく、止まる・切り返す・方向を変える能力と関係する。陸上だけでなくサッカー、バスケ、鬼ごっこ系の動きにもつながる。
研究: 若年アスリートでは腱剛性と跳躍効率・傷害リスクの両方を見る必要がある。跳ねない子へ回数だけ増やすと、適応より疲労と痛みが先に出る可能性がある。
打ち手(レッスンで使えるもの)
| ✕ やりがちな間違い | なぜダメか |
|---|---|
| 高い台からいきなり落とす | 受け止め能力を超えると、反発ではなく潰れる練習になる。怖さも入り、フォーム学習が壊れる。 |
| 「もっと強く」「もっと高く」と声をかける | 子どもは押す方だけを強め、着地のブレーキがさらに遅れる。接地時間が伸びる。 |
| 静かな着地だけで終える | 止まる能力は育つが、SSCの切り返しが育たない。止まる→跳ぶへ進める必要がある。 |
| 全員に同じ高さ・同じ回数 | Pre-PHV、体重、恐怖心、足首可動域、腱剛性で適正負荷が違う。 |
| 疲れても最後までやらせる | 疲労後は膝外反と沈み込みが出やすい。崩れた反復を積むと怪我リスクが増える。 |
1. 10〜20cmで「止まれるか」を見る
- 最初は低い台から降り、2秒止まれるかを確認する。
- 合格は、接地音が重すぎない、膝が内へ入らない、足首が潰れない、目線が落ちすぎない。
- ここで崩れる子に連続ジャンプを入れない。まずブレーキ能力を作る。
2. 止まる → 小さく跳ぶ → 連続する
- 段階1: Drop Landing。低い台から降りて止まる。
- 段階2: Drop to Small Jump。止まれる高さで小さく跳び返す。
- 段階3: 連続ホップ。接地時間が伸びない範囲で5回だけ行う。
- 段階4: 斜め・横方向。多方向プライオメトリクスへ進める。
3. 高さではなく接地時間を合格ラインにする
- スマホのスロー動画で、足が着いてから離れるまでを見る。
- ベタッと沈むなら高さを下げる。ポンと返せるなら次へ進む。
- RSIを厳密計算しなくても、「高く・短く」を見るだけで現場判断はかなり変わる。
4. アイソメトリックで受け止めの土台を作る
- カーフレイズ保持5秒、片脚スクワット保持、壁押しなどで、動かずに張力を作る。
- その直後に小さいホップを入れると、止める力と跳び返す感覚をつなげやすい。
- 痛みがある子はジャンプへ進めず、保持と可動域確認で止める。
既存指導との接続
RSI・至適接地時間: Day 004 系の「高さ ÷ 接地時間」の考え方に直結する。高く跳ぶだけでなく、短く返せるかを見る。
至適落下高: 高い台を使う前に、その子が崩れず返せる至適落下高を探す。個別最適化の説明に使える。
腱剛性: Day 032 の「跳ねる子と跳ばない子」の続編として扱える。跳ねない子は筋力不足ではなく、受け止めと腱反発の時間軸が違う。
段階的難易度設計: 止まる、跳ぶ、連続、方向転換の4段階にすると、保護者にも「安全に強度を上げている」と説明しやすい。
怪我予防: 膝外反、足首の潰れ、接地音を見れば、ジャンプ練習が伸びる練習か、痛みを作る練習かを分けられる。
コンテンツ化の可能性
| 形式 | テーマ案 |
|---|---|
| ブログ記事 | 「高く跳べ」の前に必要な、着地で潰れない力の作り方 |
| LINE配信 | ジャンプが苦手な子は、上へ跳ぶ力より先に下で潰れない力を見る |
| 保護者向け動画 | ポンと返る着地・ドスッと潰れる着地をスローで比較 |
| レッスン告知 | 陸上だけでなく、サッカー・バスケの切り返しにも効くプライオ設計 |
| X投稿 | 子どものDrop Jumpは高さではなく接地時間を見る。高く落とすほど上達するわけではない。 |
Sources
Ramirez-Campillo et al. Effect of Plyometric Training on Jumping, Sprinting and Change of Direction Speed in Child Female Athletes
Effect of Plyometric Training on Vertical Jump Height in Pre-Peak Height Velocity Boys and Girls Aged 9-11 Years
Multidirectional Plyometric Training in Young Soccer Players
Mersmann et al. Achilles tendon stiffness and jumping performance in children
知らなかった用語リスト
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